『人を注目する」ことと『物を注目する」には大きな違いがあります。皆さんが人を注目したとします。注目するには多分何らかの理由があると思いますが、人の場合、注目するとその人の気持ち・心の状態を感じ取ることができます。相手の顔の表情、視線、動作、雰囲気、声、言葉遣いなど、人の場合はいろいろな手段を使って、意識的・無意識的を問わず、自分の気持ち・心の状態を発信しています。人を注目するとそれが感じ取れます。
一方、物を注目するとき、これも多分注目する理由があるのでしょうが、それを注目することによって物の気持ちや心の状態を感じ取るということは、あまりありません。例えば、名画を見たとき、作者が絵に込めたものを感じ取ったり、使い込んだ職人さんの道具に職人さんの思いを感じ取ることはあるかもしれません。しかし、普通生活の中ではあまりありません。
さて、人を注目することによって、人の気持ち・心の状態を感じ取るということは、人間のコミュニケーションを『言葉を使う』ということと合わせて、とても高度なものにしています。しかし、コミュニケーションを高度にしていくためには、人を注目して、相手の気持ちや心の状態を感じ取る経験をたくさん積んでいかなければなりません。そのためには、お母さんを中心とした大人とのかかわり、そしてその次の段階として、友だち同士のかかわりの経験が重要になるということです。幼児期に人を注目する経験を積むということは、人間の高度なコミュニケーションを作り上げていく上で重要なことであるということですね。