ご自分のお子さんが「一斉指示が通らない」と幼稚園や保育園の先生に指摘をされて、発達相談を受けたり児童デイサービスの利用を、直接的に、あるいは間接的に促されたお母さん、お父さんがたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。
「一斉指示が通らない」というのは、「先生方が言われた指示を理解できていない」ことが原因だからこれは、知的障害あるいは自閉症などの発達障害の可能性があると考えられていると思います。
さて、我々の発達療育では「一斉指示が通らないことは、これから経験を積んでいけばできるようになっていきますよ」という考え方です。今回はその理由を述べていきます。
これまで、相談を受けてその中でお母さん方からお話を伺っていくと、「一斉指示が通らない」と指摘されたお子さんには、2つの類型が考えられます。
★「一斉指示が通らない」2つの類型
1 幼い感じがする
→ 同じ年代の子どもさんより幼い感じがする場合。例えば教室で先生が「みんな自分のお道具箱を持ってきて、中からノリを出してください。」と全体に言ったとき、すぐには反応せず周りのみんながやりだしてから友だちのやることをまねしながらやり始める、というタイプです。
→ このようなお子さんの場合、人とのかかわりの段階がまだ大人が中心で、その上の段階である「子ども同士のかかわり」の段階ではないということです。つまり友だちと一対一や数人で遊ぶ、ということができていない状態です。
→ こういうお子さんの場合、お家ではお母さんやお父さんに大事大事に育てられて先回りをしてやってもらうことが多く、その結果自分で身の回りのことをやる機会が少なくなり、その状態で幼稚園や保育園での集団生活に入り、自分のことで精一杯で先生の指示どころではない、というのが実態ではないかと考えます。
2 視覚優位の子どもさんの場合
→ 視覚優位の子どもさんというのは、写真を撮るように視覚的に情報を処理する能力が非常に強い子どもさんのことです。具体的には、記憶力が非常によく、例えば1年前に行ったおばあちゃんのお家にあった1冊の本のある場所を覚えていたり、アンパンマンの200くらいのキャラクターの名前やほとんどの車の車種を憶えている、というようなことです。それから、図鑑が大好きであったり、レゴやパズルなどが好きで一人でずっと遊んでいるなどです。それから2才代、3才代、4才代で、ひらがなや数字、カタカナ、アルファベットがほとんど読めるような場合です。
→ 先日テレビのEテレの番組の中で、若い女性の俳優さんの門脇 麦さんという方が、せりふを覚えることを家では一切やらず、移動の途中や待ち時間で覚えてしまうそうで、ご自分のことを「目で記憶するタイプ」だと言われていました。たぶん門脇さんは視覚優位のタイプの方思われます。そして、視覚優位というのは障害というものではなく、そういう身体的特徴をもつ方々で、日本中、世界中にたくさんおられると思います。
→ もしそうだとした、視覚優位の幼児期の子どもさんがなぜ「一斉指示が通らない」のか。それは視覚優位の幼児期の子どもさんの特徴として、頭の中には、視覚優位ではない人の何十倍の視覚情報が詰まっていて、それが何かの拍子にあふれ出てきて、先生がみんなに一斉指示をしているときにもそれがあふれ出てきてしまっていて、それに気を取られて先生の指示を聞いていなかったのではないかと思われます。ということは、普段先生の指示を聞いている場面もあるということですね、
★2つの類型から言えること
2つの類型とも、先生が全体に言われた指示を「理解できなかった」のではなく、「聞いていなかった」ということです。
改善策です。
1の「幼い」場合は、人とのかかわりの段階を「友だち同士のかかわり」へ,、レベルアップさせなければなりません。それにはお家でお母さんとのやり取りを中心に、自分でできることを自分でする、自分の思う通りにならない場面を経験させて、駄々をこねるなり我慢をするなり自分で対応することを経験させる などして人とかかわる基礎の力を伸ばし、その上で幼稚園や保育園で友だちでかかわる場面を経験させていくことが必要かと思います。
2の「視覚優位」の場合は、基本的にはお家での親御さんとのかかわりや幼稚園・保育園でのかかわりを更に経験していく中で、「相手を見て人の話を聞く」というコミュニケーションの基本が身についていきますので、それによって「一斉指示を聞く」場面が増えていくと考えます。
今回は以上です。